自己改革へのメンタルコントロール的なアプローチは、心理学者フロイトの精神分析論と後続の「新フロイト派」の研究以降、大きく進化しています。
こうした進化のプロセスで、メンタルコントロールは本能や性衝動を行動の根源とみなすことに背を向け、繰り返し発生する葛藤やパターンに関する相互理解だと考える方向に向かいました。
同時に、精神医学でも、時間がかかる机上の分析や心理療法の推定でなく、より活動的で時間のかからない改革の手法を重視するようになりました。
意外なことに、こうした進化は主に世間の関心が極めて低いところで起きていたため、それが分析を用いた手法など古くさい、時代遅れだ、という認識が高まる一因になってしまいました。
しかし、これはまったくの見当違いです。
メンタルコントロールでは、現在起きている問題は、過去の人生の対立関係で生じた葛藤やパターンが再現されたものである、というのが基本的な考え方です。
自己とは、さまざまな関係の体験を長年にわたって内在化してきた結果だと考えられます。有意義で建設的な関係を築いているときには、建設的な自己イメージや考え方が内在化されます。
でも、否定的で対立した関係は、否定的で対立した自己意識として内在化されます。
つまり、さまざまな関係は私達が自己を体験する鏡になるということです。私達自身は、過去の体験をすべて集めたものなのです。
別ページでも、対立関係における葛藤やその結果がもたらす不安に対処する防衛方法を解説しました。
こうした「防衛」の働き(不安や葛藤など、適応できない出来事に再び適応しようとする心の働き。
心の安定を守ること)は、不快症状を取り除くには利用価値があるかもしれませんが、将来の関係や生活状況にはもう古くて使えなくなる可能性があります。
もし現在の状態が引き金になり、過去の対立関係で生じた問題に引き起こされた感情がよみがえってきた場合、私達は古くなったやり方で望ましくない結果をもたらすような行動を取ってしまうのです。
こうしてよみがえってきた感情パターンに心の安定を守ろうとする反応や否定的な結果が加わると、心理療法研究者が言う「中心葛藤関係テーマ」と呼ぶものになります。
こうしたテーマはさまざまな形で、またさまざまな状況で繰り返され、私達が望ましくない行動を取る一因になっています。
この点からカウンセリングや心理療法の目的は、「循環する悪いパターンから私達を切り離すこと」ということになります。
さて、ある知人のSさんの例です。
Sさんはとても円満な家庭で育ったと言います。もともとSさんのご両親は、お二人とも自分の両親と別居していたそうで、そのために、子供であるSさんのために良い家庭環境を作ろうと誓っていたそうです。
その点ではSさんご両親は大成功を収め、Sさんも親密すぎると感じるほどだったそうです。
しかし、その結果Sさんは逆に独りになりたくて、子供の頃はよく長時間自転車を乗り回したり歩いたりしたそうです。
ところが、後に奥様と出会い、三人の子供たちと共に家庭を築いたとき、Sさんは長時間シャワーを浴びたり、用事もないのに出かけたりして家庭生活から離れようとしている自分に気がついたそうです。
これで家庭生活は台無しになり、家庭内にやや緊張感が走ったと言います。
独り暮らしが長かったため、Sさんは他の人とあまり親密な感じを体験したことがなかったのです。新たな家族との生活に入ったときにも、過去の成長期の体験からくる心の働きがよみがえってきて、当時のやり方で堅苦しく振る舞っていたのです。
要するに、家族と離れて独りになりたかったのです。ところが、子供のころにはうまくいっていたことが、新たな家庭ではもろくも失敗に終わったのです。
新たな状況のなかで心の安定を守ろうとする過去のやり方を繰り返すことで、新たな問題を生み出してしまっていたのです。
こうした「防衛」の働きはすべて、意識的にではなく自然と無意識に表れる傾向があります。こうした繰り返しのパターンを意識するすべを知らなければ、それを変えることはできません。
メンタルコントロールの作業では、無意識を意識化することをひとつの目標にします。
つまり、私達が自己を認識し、過去の葛藤に新たな終止符を打てるようにするのです。
先ほどのSさんは家庭内での自分のパターンを変えることができましたが、それは「もう過去のやり方で対処しなくてもいいんだ・・今の家族は以前の家族とは違うんだ。私はもう子供じゃないんだ」ということに気付いたからです。
FXトレード上の問題の多くはマーケットで自分の脚本を演じてしまった結果
過去の葛藤が現在のFXトレードに立ち入ってくるのを見極める最も良い方法は、自分のトレード上の問題が引き起こす心の動きについて調べてみることです。
それが過去の職場や人間関係で体験した心の動きと似ているなら、それは循環する悪いパターンの最たるものです。
例えば、自分の欲求不満からFXトレードでトラブルが生じ、友人や恋人ともトラブルに陥っていたら、それは明らかに単なるトレードの域を超えたパターンです。
もしFXによって自分が過去の体験と同じように葛藤を感じ、傷ついているならば、それは今でも過去を引きずっている証拠です。
自分のFXのコーチとしては、問題を深く掘り下げてその原因を究明することも必要になります。この原因を究明するには、自分の過去を見直した上でその過去を最近の体験に照らして位置づけなければいけません。
言い換えると、現在のパターンだけでなく過去のパターンも見なければならないということです。
自己改革のメンタルコントロール法を最大限に活用できるのは、現在と過去のパターンが一致した部分です。
過去の人生の問題が、現代の自分のFXに影響を与えているかチェックする方法
あなたへの課題ですが、一枚の紙に二本の波を描き、それぞれに山と谷を最低四つずつ作ってみてください。
一本目の波には、山のところに自分の人生で「最高の体験」、すなわち最も前向きで充実していた体験を書きます。それは対人関係でも職場でも、人生のどの活動領域の体験でも良いです。
もう一本の波には、谷のところに、やはりどの活動領域の体験でもいいですが、人生で最低だった体験を書きます。これは感情的に最も激しい苦痛や苦悩に満ちた体験になります。
全部書き終わると、この波チャートは人生の浮き沈みであふれたものになるはずです。
最初の波チャートを書き終えたら、次にまた一枚の紙に二本の波を描き、同じように記入しますが、今度はFX関連の事に限定します。
つまり波の山のところには最も前向きで充実していたトレード体験を記し、波の谷のところには最もつらくて気が動転したマーケット関連の体験を書きます。
そして、「なぜ」その出来事が最高の体験だったのか、または最低の体験だったのかがすぐに評価できるように、両方の波の記入事項がすべて詳細に記してあるかどうかを確認します。
さあ、本当の作業はこれからです。二組の波の山と谷を比較してみることです。そして自分の人生における体験とトレードにおける体験の両方に関連している共通のテーマを探してみることです。このような共通のテーマの多くは、ある同じ感情レベルにあるはずです。
注意すべき共通のテーマをいくつか挙げてみます。
●適格性と不適格性
●規則や規律に対する反抗
●退屈さとリスク
●達成・希望と失敗・落胆
●認識と拒絶
●充実・容認と怒り・欲求不満
●安全と危険
もし為替相場に対して、自分が人生の谷を体験している時に感じたものと同じだと思ったら、葛藤と対処が繰り返されるというワナにはまっている可能性があります。
そのワナを認識し、心にしっかりととどめておけば、メンタルコントロールの闘いも半ばまで来たことになります。
自分のFXの自己教育者としては、自動的に過去の失敗を繰り返さないように、トレードでも十分に気をつけようと思うでしょう。
それがどのようなパターンなのかがはっきりしてくれば、過去の破壊的な失敗パターンに陥ることはほぼなくなります。
私達はごく最近体験した心理戦と格闘することが多いです。まずは自分の人生における最近の対立関係の体験と、その対立関係が引き起こした思考、感情、行動を特定してみることです。
続いて一番最近のFX上の問題が、同じような思考、感情、行動が関係しているかどうかを調べてみることです。幼少期の対立関係だけでなく、ごく最近の葛藤も、私達の現在の行動を左右していることが多いです。
その対立関係の中で、そうした問題をどう解決してきたかを見極めることが、または、それが現在の問題なら、その問題解決のために対策を講じることが、FXでトレードのやりすぎを最小限に抑えるのにとても役に立ちます・・・