経験豊富なFXトレーダーのほとんどが『神の領域』、すなわち為替相場の状況がはっきりと見えるため、正しい意思決定など朝飯前だという感覚を持っています。
心理学者のマズローはこの瞬間を「ピーク体験」と呼び、同じく心理学者のチクセントミハイはこれを「フワー(流れ)体験」と呼びます。
例えば、役者さんは迫真の演技で役を演じますが、意識して努力しているようには見えないこと、それが『神の領域=ゾーン』というメンタルコントロールに達しているときの特徴です。
ゾーンは感情の状態とは違うものですが、心の幸福をもたらしてくれるものであり、間違いなく否定的な心の動きによって分断されてしまいます。
ゾーンに運するには「没頭すること」、自分の行為に完全に集中することが必要です。
その意味で、ゾーンとは高度に注意を傾けている状態、ある活動に十分に焦点を合わせ、深く入り込んだ結果だと言えます。
自分の活動に没頭していなくても、ゾーンを体験していなくても、自動的かつ高度なやり方で行動することはできます。
誰も走っていない道路を車で運転したり、いつもの慣れた街路を歩いたりといった、繰り返しの多いルーティンには特別な注意を払う必要はないですが、普通はそれで幸福が得られるわけでもありません。
ゾーンに達するには、自分の注意がすべて奪われるような仕事にいっそう精神的な努力を傾けなければならないのです。
ゾーンの状態では何気なく演じているように見えても、実は機械的な動きとは全く違うのです。
別ページで「ニッチ(得意分野)」つまり自分に才能や力量があり、関心が引きつけられる分野で演じることが重要だと強調しました。
自分のニッチのなかで行動しているかどうかを測るには、演技時間とゾーンの状態にいた時間との相対的比率が優れたバロメーターになります。
私がトレードをしている最中に最も頻繁にゾーンの状態に入るのは、積極的に為替相場を見極め、リサーチに没頭し、その分析結果を短期のFXトレードに応用しているときです。
重要なことですが、私が着目するのはFXトレードのパズルを解くような側面であり、トレードそのものではありません。
もし問題解決に取り組まずに機械的なトレードをしていたら、FXに不快感を抱いてしまうでしょう。表面的な付き合いで人と話をするようなものです。
私のメンタルコントロールも散漫なままで、ゾーンの状態にはないです。
FXトレーダーに見られる最も問題の多い心理的なパターンは、あまりにもリスクの高いトレードをしては見せ掛けのゾーンを作り出そうとすることです。
言い換えると、もともと為替相場やFXトレードのプロセスに関心はなく、アイディアに大きく賭けて関心や注意を喚起しようとすることです。
これは明確な理由から問題です。法外な損失や破産という潜在的リスクにさらされるからです。
心理的に甚大なダメージを受けるものでもあります。FXトレーダーが一定のリスクに慣れてしまうと、関心や注意を喚起するにはさらに高いリスクを求めるようになります。
薬物常用者がハイな状態になるのに大量の薬物を求めるのとまったく同じです。FXヘの関心を持続させるためにリスクという興奮を求めるトレーダーは、最終的には自滅します。
これは情熱ではなく、単に依存しているだけなのです。(ギャンブル依存症)
その状態から抜け出す、または最初にその状態が姿を見せるのを防ぐ最も効果的な方法の一つが、自分の演技にではなく自分自身に注意を集中させることです。
記録を打ち立てようとして自分にプレッシャーを掛けながらスポーツに励んでも、『神の領域』には達しません。
トレード中にFXの損益のことばかり考えているトレーダーは「終わってる状態」であり、為替相場のことに集中できていない
もし自分の目標が『神の領域』の状態で演技をすることならば、演技力に対する不安(演技中に演技について考えること)は大失敗の原因になるのです。
FXトレーダーが「今すぐ儲けなければいけない」というような苦しい状態では、為替相場の変動を乗り切ってトレードのアイディアやプランの実行に集中するのは難しいのです。
もし今日のFXで明日の食費を稼ぐ必要があるのなら、『神の領域』の状態に達することなどあり得ません。メンタルコントロールなどできません。
同様に、もし心理的に利益に執着し、FXの結果に対する自尊心や自分自身に浸るようになったら、もう自分のトレード体験をコントロールすることなどできないでしょう。
自分の感じ方が為替相場の変動にコントロールされる可能性があるからです。
自分の行為をコントロールする基本的な力が求められるのです。
人生でもFXトレードでも、分散すれば成績に対するプレッシャーが軽くなり、自分の行為に没頭することができます。
同様に、少額をトレードしているトレーダーは、全体的なトレードプランの実行に集中することができるのです。
そのポジションで大きな結果を出そうというプレッシャーはないし、結果を出せなくても差し迫った脅威がないからです。
これが心理パラドックスであり、メンタルコントロールなのです。
つまり、何かひとつのポジションの成績に集中すると、複数のポジションの成績が分散されるのです。もし私に父親、夫、そして心理学者としての成功体験があれば、FXで無理に儲けたりする「必要」がないのです。
私がFXトレードに集中し、そこから満足のいくリターンを達成できるのは、まさに感情を分散しているからなのです。これがメンタルコントロールです。
自分のトレードの自己教育者としては、時間や努力、感情を必要以上にトレードに費やす必要はありません
もし心の卵をすべFXというバスケットに入れてしまったら、それこそ燃え尽きて、FXから離れざるを得なくなります。
そうではなく、逆にFXトレードを自分の生活のなかで数ある充実した活動のひとつにすることで、最高の自己教育者になれるのです。
ほかの卵は、スポーツ、社交、知的生活、家庭生活、地域活動、趣味などに振り分ければ良いです。
そうして自分の生活が満たされれば、FXの成績の変動など十分に乗り切ることができます。
もう特定の時間に結果を出す必要もなくなるため、トレードの過程でいっそうメンタルコントロールが容易にでき、優れたトレードができるようになります。
では、ここで皆さんに課題を出します。前述の生活のさまざまな側面にどの程度関心があるか、どの程度満足感を味わっているか、そして自分の幸福のためにどの程度活動範囲を広げているかを自己採点してみることです。
次に、自分の感情をもっとうまく分散するための強化分野を一つ選んでみることです。
そうすれば、新たな喜びや達成感の源を見つけることができるだけでなく、心理的な基盤作り、すなわち内なる安心感や充足感を生み、自分が活躍できる場を見つけてそこにとどまることもできます。
トレードの画面から少し離れてみましょう
集中力を取り戻し、厄介な為替相場から一歩引いてみるには休憩するのが良いです。
最も良い休憩としては、無我夢中になれるもの、トレードとは違うゾーンの状態に入れるものが良いです。運動をしたり、人との会話を楽しんだりするのも一つです。
私が夢中になれるのは、愛犬と遊んだり散歩している時です。今までの行動から気持ちが離れ、リフレッシュしてからFXトレードに戻ることができます。
トレードに没頭したあとはスイッチを切りかえる、つまり心も体も無理やり切り替えることです・・