行動心理学の本質は、動物の世界に見られる学習のメカニズムを利用することです。
例えば、わが家の飼い犬は、朝7時に起床し私からドッグフードをもらえることを学びました。私の足音が聞こえるや目を覚まし、オスワリして私を見上げます。
繰り返しによって、犬は私が目を覚ました後の足音とエサをもらえるということを関連付けることを学んだのです。
これが「刺激⇒反応学習」の基本です。動物は反応のパターンを刺激(状況)と関連づけることを学ぶのです。こうした状況と反応がともなうことで、時間をかけて強化され、それが学習されたパターンをさらに強化していくのです。
伝統的な行動主義では、このように学習された結びつきを学習者の心の状態と関連させて説明しているわけではありません。
「朝だ、ご主人様が目を覚ましたからオスワリして待ってなくちゃ」と犬がはっきりと論理的に考えているわけではないのです。そうではなく、私が目を覚ましたという感覚の刺激が犬の期待を誘発しているのです。
例えば、ある特定の古い歌を耳にすると、その当時の記憶がよみがえってくるのとまったく同じです。
前のカテゴリでお話した、コーチングの認知再構成のアプローチは、心の地図を描き直し、FXトレーダーの明確な思考を変えることを目指したものでしたよね。
その次に必要な行動モードの目標は、悪い結果をもたらす連想的な関連づけを断ち切り、より適応可能な新たな関連づけを学ぶことです。
行動心理学では、「学習解除」は学習の裏返しでもあります。もし時間をかけて特定の行動を強化しなければ、連想的な関連づけも弱まり、最後には反応のパターンも消え去ってしまいます。
もし毎晩ベルを鳴らしてペットに餌をやっても、朝に餌をやらなければ、最終的にペットは朝に反応しなくなります。代わりに、ペットはベルの音が聞こえたら走ってもよいのだということを学びます。
それを強化しながら行動のパターンを根づかせていくのです。強化を止めると、そのパターンを放棄することになります。
この観点からすると、FXトレードに多くの否定的行動のパターンが生まれるのは、そのパターンの建設的な面が強化されているからか(正の強化)、あるいは否定的な面が強化されているか(負の強化)のどちらかだからです。
この違いは重要ですが、十分には評価されていません。
正の強化は犬にエサをやるのと同じです。つまり、人は都合の良いことを特定の刺激(状況)と関連づけようとするため、
例えば、私は早朝のトレードの準備を、「自制と備え」という特定の感情の状態と関連づけることがありますが、こうして関連づけることで準備の時間を楽しみにし、そのルーティン(型にはまった行動)を続けていられるのです。
備えができていることと、良い気分を味わうこと・・・または備えができていることと良いトレードをすること・・・これらがともなうことで、時間をかけて強化され、やがてしっかりと根づいた習慣になるのです。
さて、負の強化はやや微妙です。また、それは損失をもたらすパターンにトレーダーがしがみつく主な理由でもあります。
負の強化の場合、刺激(状況)と反応との結びつきが強化されるのは、良い結果が出るからではなく、一連の悪い結果が取り除かれるからです。
例えば、あなたがFXで買いポジションを持っていて、為替相場があなたの予想に反した方向に動いて売り注文があびせられている最悪のタイミングで撤退決済したとしましょう。
一緒になって売るには最悪のタイミングだというのは頭では分かっているのですが、その時点ではひどい状態なので、手仕舞いしてしまえば気が楽になるだろうと感じています・・・
例えば薬物依存症患者は、まずはハイな状態になりたいという気持ち(正の強化)から手を出し、やがては禁断症状になりたくない気持ち(負の強化)から習慣化してしまうのが普通です。
苦痛を回避することは力強い強化であり、しかも学習された行動パターンを、快楽を取り込むときと同じように効果的に形成してしまうのです。
FXトレードの場合、学習された行動パターンのうち最も破壊的なのは、スリルや興奮とリスクを取ることとを関連づけてしまうことです。
FXトレーダーが自己資金のサイズと比較してあまりにも高いリスクをとると、利益も損失も大きく膨れ上がります。スイングトレードが刺激的だと思っているトレーダーもいますが、その時点ではその刺激が彼らの強化になっています。
大負けするトレーダーは、利益を求めてFXしているのではなく、スリルを求めてFXしているのです
そんな彼らには必ず平均化の法則というのが待っています。数日、数週間と負けが続くと、高いレバレッジに足を引っ張られて自滅してしまうのです。これはスリルを求めるFXトレーダーがもともと自滅型だからではないのです。
むしろ、繰り返される心の動きによってリスクをとることと興奮とを関連づけることを学んでしまっているからなのです。これはFXのメンタルコントロールで絶対に忘れてはいけない事です。
状況と反応がともなう作用に、心の動きの勢いが関与してくると、そのそもなう作用がより速く、かつ深く学習されることを示した研究があります。
それは、人はほんの数回薬物を使用しただけで、いかに強い薬物に依存するようになるか、また心的外傷(トラウマ)が残るような出来事をたった一度経験するだけで、いかに心配性になり、身がすくんでしまうかという研究です。
数週間で新しい曲芸を覚えられるような動物は、一度食べて具合が悪くなると、毒入りの餌を避けることも学べるといいます。心の動きが行動学習を加速するのです。
これがFX上の多くの問題の原因になっているわけですが、行動科学を採り入れた強力なコーチングの手法への道を切り開くものでもあります。
自分のFXの自己教育者としては、まずは自分の関連づけの特徴、つまり自分の期待と行動との関連づけを理解することが大切です。
自分のFX上の問題を理不尽だと考えるのではなく、それは何か自分が獲得した報酬(正の強化子)、あるいは自分が避けている罰(負の強化子)に裏づけられた、学習されたパターンなのだと考えてみることです。
FXでは何かが自分の最悪のトレード行動を強化しているのです
一度そのともなう作用が理解できれば、その強化因子を取り除き、望みのトレードパターンを強化する新たな強化因子を導くことが出来るのです。
まず手始めに、ごく最近、自分か本当にひどいFXをしたときのことを思い出してみましょう。
例えば私が思い出す最近の出来事は、下降相場が好転するものと確信していたときのことです。保有していたポジションも当初の損切り価格よりもはるかに上方で推移していました。
では、このときの強化子は何だったのでしょう。私は連勝街道まっしぐらで、撤退はしたくなかったのです。つまり、トレードから撤退することと、その幸運を断ち切ることとを関連づけてしまっていたのです。
FXを続けているかぎり、幸運はそのまま続くだろうという希望を維持できていたわけです。
でも当然、そんな根拠はナンセンスだし、ひどいポジションを一枚保有しているだけで連勝中に上げた利益などすべて吹き飛んでしまう可能性もあります。
それにしても、感情的な結びつきというのは強いものです。
つまり、私は勝ちに固執していたわけです・・・だから、単にうまくトレードすることよりも、勝つことの魅力のほうがはるかに勝ってしまっていたわけです。
では、自分のごく最近のFXトレードで、最悪だったケースを振り返ってみましょう。
●どの利益を最悪のトレードと関連づけていたのか・・・
●どのような否定的な行動を回避しようとしていたのか・・・
●どのような「ともなう作用」が働いていたのか・・・
自己改革の第一のプロセスは、自分の内なる観察者になり、自分をコントロールしていたパターンを認識することでしたよね。
自分の行動は理不尽で破壊的に思えるかもしれませんが、理由があってそこで起きているのです。その理由は入念な行動分析によってはっきりします。その行動を変える好スタートを切ることもできます。
自分にとって最も苦しい感情を確認したら、FXをしている最中にそれを追跡することです。それが損失の苦しみだというトレーダーもいるでしょうし、退屈さに、またはどうすることもできない不確実性に否定的な反応を示すトレーダーもいるでしょう。
多くの場合、自分が最悪の意思決定をしてしまうのは、自分自身をそうした感情から解放しようとした結果なのです。この負の強化が、今にして思えば何の意味もなさそうな、性急で無計画なトレード行動につながってしまうのです。
もし負の強化が行われていることが自分で分かれば、もっと意識的に、また建設的にそうした苦しい感情を処理することができるのです・・・